秘密

 

願いは口に出したら叶う、と言う人と

口に出してしまったら叶わなくなる、と言う人がいる。

 

 

僕はどちらか分からなかった。

 

分からなかったから口に出した。でも口に出したことと行動がすぐ変わってしまった。多分、口に出して叶う人はそれまでの努力ができる人、という条件があったんだろう。僕は努力ができなかった。

先に夢を語りすぎるのは、結果の前借りだ。借りた期待と信用が返せなくなる。貯めた努力で夢はその時買うべきだと思うようになって、僕は口にしないことを覚えた。

置いていくのは事実だけ。そうすることで踏み出す一歩が残って、地に足がついた。派手さはないけれど自分の足跡。それは僕の、久しぶりの小さな誇らしい秘密になっていった。

 

それを久しぶりだと思うほど、数年前は中身がなかった。秘密を持ちきれないということはその人間に中身がないという意味だった。

 

学生時代は自分のやり場のない感情の消化の仕方がわからず、吐き出せない思いは消えないまま続いた。言葉にしてすっきりすることもなく、胸の中に純度の高い炎があった。でも少しずつ言葉にすることを覚えると先に口ばかり回ってハリボテが増えた。炎は汚れ口数は増えるのに自分の内に豊かさはなく、捻れば着くだけのガスコンロの火になった。

 

 

二人の後輩から教えてもらった2つのことがある。一つは「分からない」という状態で踏みとどまることは大事なこと。すぐ答えを出すことが全てじゃない、という答えは怖くて待てなくて難しい。

 

もう一つのは割と最近で、誤解は理解の一種だということ。僕は誤解は理解の途中だと思っていたので、何処かで自分や相手に完璧な理解を求めて必死で説明を探してきたけど、なんとなくこじつけらしかった。どんな結果でも一つ一つの完結の仕方なんだなと思えるその子の考え方のほうがいいと思った。

 

 

サブスクでは出していなかった曲がある。わからないと思われることが不安で出すことを避けた気がする。でも一旦一人での活動の最後に置いていこうと思った。自分の核に触れる時よくわからない言葉が出る。自覚していないのに先に出る涙。みたいなそういう曲だ。

 

わからないけどやめないでいることは、その人自身の表れだと思う。秘密の「分からなかったことだけがその謎を通して問いかける」という歌詞を、僕は気に入っている。